被告の兄が、信用金庫と手形取引を開始するにあたり提出した手形取引契約書の連帯保証人欄に被告の記名押印がなされていたので、信用金庫から被告に保証債務の履行請求をしたが、被告は兄が印章を盗用を盗用したものであるとして争った事案で、印鑑の盗用が認められた。
「原告の右主張事実の直接証拠となりうるものに、甲一号証の一(手形取引契約書)があり、右書証の連帯保証人名下の被告の印影が被告の印章により顕出された事実は当事者間に争がないけれども、被告本人は、右印影につき被告の押捺を強く否定する供述をし、更に、証人平野輝雄の供述によると、昭和四一年五月二五日頃、訴外竜泰は、原告九段支店と手形取引契約を開始するに当り連帯保証人の差入れを求められたので、右同支店得意先係平野輝雄同席の上で被告方で被告方で被告に連帯保証を求めたが、被告は遂に承諾しないままその場を立去ったこと、その直後、右竜泰が前記のとおり被告の印章により顕出された印影のある甲一号証の一を隣室から持参したので、右平野輝雄は漫然被告の押捺したものと信じ訴外竜泰が被告の氏名を連帯保証人署名欄に記入したのちこれを前記支店に持ち帰ったが、真実被告が承諾したかは確めなかったことが認められ、右認定に反する証拠はなく、また、被告本人の供述によると、訴外竜泰は被告の印鑑を無断で被告の妻や使用人から口実を設けて借り出し使用した事がある事実が認められ、他に右認定に反する証拠はなくまた証人高橋丸雄、被告本人の各供述によると、訴外竜泰は、被告の居ない場所で、甲二ないし四号証を含めて約三〇通の借入申込書用紙や約束手形用紙に被告の印鑑を押捺した事実があることが認められ、他に右認定に反する証拠はなく、これらの諸事実と、頭書事実を強く否定する被告本人の供述とを併せ考えると、甲一号証の一の印影が被告の印章によるものであることと証人平野輝雄の供述のみで右書証の成立の真正を推認し、或いは原告の主張二の事実を認めることはできず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。」