原告(銀行)が、A社に対し700万円を貸し付けるにあたり、被告Y3の連帯保証が認められるかが争点となった事案。保障契約の債権者側として、どこまで保証人本人の確認をすべきなのかという点について参考になる裁判例です。

「1 原告は,被告Y3が,原告に対し,平成20年5月28日,書面により,本件消費貸借契約に基づく被告Y1社の原告に対する債務を連帯保証したと主張し,甲第7号証の印鑑証明書の印影と対照したところと弁論の全趣旨によれば,①甲第2号証の変更契約書(以下「本件変更契約書」という。)の連帯保証人欄に押捺された代表者印の印影,②甲第3号証の特定保証約定書(以下「本件特定保証約定書」という。)の連帯保証人欄に押捺された代表者印の印影,③甲第5号証の被告Y3の平成19年9月4日付の取締役会議事録の写し(以下「本件議事録の写し」という。)に押捺された代表者印の印影は,いずれも被告Y3の代表者印によるものであると認められる。また,原告は,平成20年5月26日付の被告Y3の代表者印の印鑑証明書を所持している。
そして,原告の担当者であるC(以下「C」という。)は,①平成20年5月28日午後5時ころ,赤坂にある被告Y3の事務所に行き,被告Y2(被告Y1の代表取締役で本件消費貸借契約の保証人である)から,そこにいた人物を被告Y3の代表者であるB(以下「B」という。)として紹介を受けた,②Cは,Bと名刺交換し,運転免許証の提示を受け,本人であることを確認した,③Cは,Bに,保証意思を確認した上,本件変更契約書,本件特定保証約定書及び本件議事録の写しへの記名押印を求めたところ,Bは,被告Y3の女性従業員に指示し,同事務員が,これらの書類に,被告Y3の社判と代表者印を押捺した,④その際,Bは,Cの求めにより,本件議事録の写しに,「原本内容と相違しない事を証明する。」と付記した,と供述しており,陳述書(甲10)にも同趣旨を記載している(以下,陳述書の記載を併せて「Cの供述」という。)。
また,被告Y2も,Cは,平成20年5月28日午後5時ころ,被告Y3の事務所を訪れ,Bは,本件変更契約書,本件特定保証約定書及び本件議事録の写しに被告Y2の社判と代表者印を押したと思う,本件議事録の写しに上記付記をしたのはBしか考えられないと供述している。
 これに対し,Bは,本件連帯保証の依頼をされたことはなく,被告Y3の印鑑証明書の交付を指示したこともなく,平成20年5月28日には,被告Y3の代表取締役の1人であるDと赤坂にあるレストラン「グラナータ」で昼食をとり,午後1時40分に強制的に打ち切った上で,午後2時から,千代田区神田駿河台の「山の上ホテル」で開かれた学校法人服部学園の理事会と評議員会に出席し,午後4時ころ同ホテルを出て,午後5時前ころ,品川区大崎にある株式会社千趣会東京本社に行き,打ち合わせ会議に出席していたものであり,同日午後5時ころ被告Y3の事務所にいたことはなく,本件変更契約書及び本件特定保証約定書を作成したことはないし,被告Y3の印鑑証明書の交付を受けることを指示したこともないと供述しており,陳述書(乙9)にも同趣旨を記載している。
 そこで検討するに,Bの日記(乙1の1,2)の平成20年5月28日の欄には,「Dとグラナータ昼食。1:40強制終了→お茶美理事会&評議員会。定刻4時に中座。大崎へ。千趣会創造開発研究室。F室長を訪ねるが,何とG氏が一緒に現れた。」との記載があり,これは,上記Bの供述に沿うものである。
そして,学校法人服部学園理事長E作成の「理事会・評議員会への出席証明」と題する書面(乙6)には,Bが,平成20年5月28日午後2時から午後3時まで千代田区神田駿河台の「山の上ホテル」で開催された同学校法人の理事会に出席し,同日午後3時から午後4時10分まで同ホテルで開催された同学校法人の評議員会に出席していたとの記載がある。
また,株式会社千趣会東京本社創造開発研究室室長F(以下「F」という。)作成の「2008年5月28日(水)打ち合わせの件について」と題する書面(乙3)には,Bが,同日午後5時から午後6時30分まで,同社東京本社の会議室において行われた打ち合わせ会議に出席していたことを確認するとの記載があり,Fの予定表(乙4)の同日の欄にも,「16:30 17:30 B moss」との記載があり,Fは,証人尋問において,同趣旨の証言をしている。
Bの供述には,上記のような裏付証拠があるところ,これらの証拠の信用性を疑うべき事情は認められない。
 一方,Cは,前記のとおり,本件議事録写しへの付記は,Bが記載したと供述するが,この付記部分の筆跡を,Bの日記(乙1の1,2,乙14の2)に記載された文字のBの筆跡,Y2のメモ(乙7)に記載された文字の被告Y2の筆跡と対照したところによれば,上記付記部分の筆跡は,Bの筆跡とは異なった特徴を有しているが,Y2の筆跡とは類似の特徴を有していると認められる。
また,Cは,Bと名刺交換し,Bに運転免許証を出させて本人確認をしたと述べるが,これらの事実を裏付ける証拠はなく,その場にBがいたことを裏付ける客観的な証拠もない。
そして,前提事実と証拠(甲5,甲9,乙5,乙9,乙18,被告Y1,被告Y2代表者B)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y2は,平成19年3月12日,被告Y3の代表取締役に就任し,被告Y3は,同年9月4日に開催された取締役会において,被告Y3が,被告Y2が代表取締役を務める被告Y1の債務について連帯保証することを承認していたが,被告Y2は,Bとの間に対立が生じたことから,平成20年4月25日,被告Y3の代表取締役を辞任し,被告Y3の事務所を出ていた(ただし,同年7月まで被告Y3の取締役の地位にあった。)ことが認められ,これら事実に照らすと,平成20年5月28日に,Bが,被告Y1の債務について被告Y3が連帯保証することを了解したというのは疑問がある。
一方,B及び被告Y2双方の知人であるHは,平成20年7月末ころ,被告Y2から,Bが保証を承諾するわけはないので,Bに黙って被告Y3の事務所に行き,誰にも見られないうちに,被告Y3の社判,印鑑を契約書に押して原告に提出したと聞いた旨証言し,陳述書(乙8)にも同趣旨を記載しているところ,証拠(乙9,被告Y3代表者B)によれば,被告Y3においては,社判及び代表者印は,事務所のキャビネットの中に保管していたが,施錠はしておらず,Bの指示がなくても使用することが可能であったこと,被告Y3では,印鑑証明書交付用のカード(印鑑登録証)は,印鑑類一式と一緒に保管しており,誰でも持ち出すことが可能であったこと,被告Y2は,被告Y3の代表取締役を辞任した後も,被告Y3の事務所の鍵を所持していたことが認められる。
また,前記被告Y2の供述は,本件変更契約書及び本件特定保証約定書に押印した人物,本件議事録の写しに付記をした人物が誰であったか明確ではない。
 以上検討したところによれば,本件連帯保証をしたことはないとするBの供述は信用性が認められ,C及び被告Y2の供述は採用することができない。
そうすると,本件変更契約書及び本件特定保証約定書の被告Y3作成部分については,真正に成立したとの推定を覆す反証があったというべきであり,原告が主張する被告Y3による連帯保証の事実は認められない。」