民法第一一三条に定める無権代理行為の追認は、明示の行為のほか、黙示の行為によってもこれを為し得ることは言うまでもないところ、追認により、他人に対し債務を負担すべき立場の者についてこれを見る場合、その者が右の債務を承認し、その全部又は一部の履行を為すことは、黙示の行為による追認としての典型的なものというを得べく、この場合、右の行為を無権代理に対する追認行為としての効力を肯定するにつき必要な前提としては、無効行為の追認(民法第一一九条但書)との対比上、追認を為す者において、それが無権代理行為を対象とするとの認識を有することを以て足るものと解するを相当とする。ところで、本件において原審の確定した事実によれば、被上告人は、上告人が主張する自己の連帯保証債務が、被上告人の妻において被上告人に無断で被上告人名義の連帯保証に関する契約書類に捺印したことに起因して、その履行を求められている事実を認識しながら、考慮の上、上告人に対して右連帯保証債務を承認し、これにより約定した第一回分割金を支払って、その一部履行をしたというのであり(右事実を上告人の請求原因と対照すると、被上告人は右の債務承認に際し、上告人の譲歩により期限の猶予等、本来の債務内容に比して若干の利益をも受けたことが窺われる)、右の行為は、それ自体で、無権代理に対する黙示の追認行為として肯定し得べきものというべきところ、原判決がこれを右の趣旨における追認として認めなかったことは、無権代理の追認に関する前示民法の法条の解釈を誤ったものといわざるを得ず、論旨は理由があり、原判決は、この点で破毀を免れないものというべきである。