被控訴人は、代理権のない前記吉村が被控訴人を代理して関与作成した本件公正証書の存在を知りながら、前記債務支払契約書に署名押印することによつて青柳が控訴人に対し負担している右公正証書記載の二五〇〇万円の債務につき連帯保証債務を負担することを承認し、かつ、その分割支払をする旨の意思表示をしたものというべきであるけれども、これをもつて被控訴人が右吉村による無効の無権代理行為を追認したものということはできない。けだし、無権代理行為の追認は、本人が自己に対する関係において本来無効である右代理行為につきあたかもそれが有効な代理行為である場合と同様の法律効果を発生しめる旨の意思を表示する行為であるところ、被控訴人の前記債務承認及びその支払の意思表示は、本件公正証書が有効で、したがつて自己につき同公正証書記載の連帯保証債務が発生しているものと誤信し、その誤信に基づきかかる債務の存在を前提として前記債務支払契約書記載の条項に従つたその債務弁済をなすべき旨の意思を表示したものにすぎず、無効の無権代理行為であるにかかわらずこれにつき有権代理行為としての効果を形成的に生ぜしめる趣旨においてその旨の意思を表示したものということはできないからである。もつとも、被控訴人の右誤認は単に被控訴人の内心的認識にかかるものであるにとどまり、外部的に表示された意思表示の内容そのものはあくまでもさきになされた公正証書記載の連帯保証債務を承認するというものであるから、その表示内容のみに着眼するかぎり無権代理行為の追認の意思表示となんら選ぶところはないと考えられるかもしれないけれども、前記認定事実によれば、被控訴人の右誤認は専ら控訴人の代理人である前記秋知弁護士の説明、主張によつて生じたものであり、秋知は被控訴人が右説明、主張に基づき法律上本件公正証書による連帯保証債務の負担を免れえないものと観念して前記債務支払契約書の署名押印に応じたものであることを認識していたものというべきであるから、被控訴人がした前記連帯保証債務の承認及びその支払の意思表示は、右秋知に対する関係においては無権代理行為の追認の意思表示としての意味ないし性質をもつものということはできない。