保証人が、主債務が主債務者と債権者との間の与信契約に基づく継続的取引によって将来発生する不確定金額の債務であるのに、100万円の消費貸借契約に基づく確定的な債務と誤信して連帯保証をした事案において、要素の錯誤を認めた。ただし、重過失を認定し、結論としては錯誤無効の主張は認められなかった。

「 (一) 〈証拠省略〉を総合すると、前示与信契約、連帯保証契約の締結に先立つ交渉の過程で、訴外人はさし当って金一〇〇万円の融資を原告から受けたいと考え、原告もこれを了承し、保証人を附けて与信契約が締結されたならば同金員を直ちに貸渡す方針であったこと、そこで訴外人は被告に対し、自分が原告から借入ようとする金額は一〇〇万円であり、原告に対しては物的担保として五〇万円程度の預金もしてあり、毎月の返済額も二六、〇〇〇円前後であるから迷惑はかけないことを強調して保証人となってもらうよう懇請したが、前示与信契約の締結については言及していなかったこと、そのため被告は訴外人と原告との間に金一〇〇万円の確定金額の消費貸借契約が締結され、自分はこの確定金額の債務についてのみ保証を依頼されたものと理解し、訴外人の資力もこの程度の弁済なら不安はないものと判断して訴外人の依頼に応じ、昭和三八年一月一八日自分の印鑑証明書の下付を受け、翌一九日ごろ原告職員から原告と訴外人との間に成立した本件与信契約たる取引約定書を提示され、連帯保証人としての署名捺印を求められたときにも、訴外人からかねて説明のあった金一〇〇万円の確定金額の消費貸借契約に関する書面と信じてその内容を吟味しないで、これに応じ、もって本件根保証たる連帯保証契約を締結したことが認定でき、これに反する証拠はない
(二) そうすると、被告のなした右連帯保証契約締結の意思表示には、保証の目的である主債務が訴外人と原告との間の与信契約に基づく継続的取引によって将来発生する不確定金額の債務であるのに、これを金一〇〇万円の消費貸借契約に基づく確定的な債務と誤信した点で錯誤があり、この錯誤は本件保証契約の目的に関するものであるから、いわゆる要素の錯誤に該当するものと解するのが相当である。
(三) しかしながら、甲第一号証および被告本人尋問の結果によると、右の取引約定書には金一〇〇万円の数字はもとより被告が誤信したような確定金額の債務の発生を目的とする契約と理解されるおそれのある文言は記載されておらず、しかも同約定書の活字は大きく印刷も鮮明であり、全文でも半紙一枚にすぎないから、これを通読するになにほどの労力も要しないこと、しかも被告は自分が署名捺印を求められている書面を読むだけの機会(時間)を有しながら、またこれを充分に読み理解できるだけの能力を持ちながら、これを尽さず漫然と署名捺印したことが認められ、被告本人尋問の結果も右認定を左右するものでなく、他にこれに反する証拠はない。
そうすると、被告は必ずしも取引約定書の全文を通読しなくとも、また精読せずとも、その概略でも目を通せば、おおよそ自分が保証しようとする主債務がそれまでの訴外人の説明で理解していたものと相違するものであることは容易に知り得たところであるのに、これをすらしなかったことは取引上当然になすべき注意義務を甚しく欠いた所為であって、被告の前示錯誤にはいわゆる重大な過失があったものというべく、被告は右錯誤による無効を主張できないものである。」