貸主である信用金庫が、1年2、3ヶ月前に行われた別の取引において同一の保証人に保証意思確認をしていたことをもって、正当事由を肯定した事例。しかし、40年以上前の判例であり、現在もこの論理が通用するかは疑問である。
「ところで、特定の取引行為に関連して印鑑を交付することは、特段の事情のないかぎり、代理権を授与したものと解するのが相当であることは、当裁判所の判例とするところである。(最高裁判所昭和四四年(オ)第五七号、同四四年一〇月一七日第二小法廷判決、判例時報五七三号五六頁、なお大判昭和五年八月四日、法律新聞三一六九号一六頁参照)。原審の確定した右(2)の事実は、補正に関連し印鑑を交付したのであるから、特段の事情のないかぎり、被上告人は土田良治に代理権を授与したものと解すべきことになる。ところで、本件記録に徴すれば、上告人と土田豊間の(1)の準消費貸借契約の締結に先だつて(3)昭和三五年一二月頃土田良治が土田豊名義で上告人から金四〇万円を借り受け、この借受金につき被上告人は連帯保証したことがあり、その際は上告人が被上告人に対し直接連帯保証の意思を確かめており、上告人としては土田豊を信用し同人に対し貸したものと考えていたものであることがうかがわれる。そうとすれば、借主の名義人の相違は問題とするに及ばないところ、前記(3)の事実は(1)の事実の僅か一年二か月ないし二か月前のことであり、(3)の事実において、上告人が被上告人の連帯保証の意思を直接被上告人本人に確かめ、被上告人が正当に連帯保証したものとされる以上、(1)の準消費貸借または消費貸借についての連帯保証契約の際その契約書に押印された被上告人の印影が(3)の借入金につき連帯保証がなされたときにその契約書に押捺された被上告人の印影と同一のものであり、それ故に(1)の右連帯保証も被上告人により真正にされたものと考えたとすれば((1)の右連帯保証契約がなされた際の契約書の被上告人名下の印影が被上告人の印鑑によるものであることは原審の確定するところである。)、(1)の右連帯保証の対象たる主債務は元金六〇万円であり、(3)のそれは元金金四〇万円で、両者の金額は、連帯保証の対象としてそんなに大きな違いはないのであるから、上告人が、(1)の場合について、被上告人の代理人土田良治により適法に連帯保証されたものと信じ、直接被上告人にその意思を確かめなくとも、特段の事情のないかぎり、右代理人に被上告人のため連帯保証を契約を締結する権限ありと信ずべき正当の理由を有し、かつ、過失はないものとなる。原審が表見代理の成否に関して認定している事実をもつてしてはいまだこの判断を妨げるものではないのである。しかるに、原審が、上告人は右連帯保証につき直接被上告人にその意思を確かめなかつたのは過失にあたるとして右正当理由の存在を否定したのは、法令の解釈を誤り、ひいて審理不尽理由不備の違法を犯しているとのそしりを免れず、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。」