本人と自称代理人間の利益相反関係により、代理権の確認義務が認定され、代理権の有無について、本人に確認しなかったことを理由に、民法110条(表見代理)の正当事由が否定された事例。
「原審が確定したところによれば、「訴外中野勇は、被上告人らの代理人として上告人と同訴外人の上告人に対する二〇万円の借受金債務につき連帯保証をなす旨の契約を締結したが、被上告人らより右契約締結の代理権を与えられてはいなかつた。もつとも、被上告人らは、中野に実印を交付し、中野の訴外福島相互銀行、同原町信用金庫に対する借受金債務につき連帯保証契約を締結する代理権を授与していた。中野はこの実印を使用して本件連帯保証契約を締結したものである。一方、上告人は、金融業者であつて、中野の代理権につき被上告人らにたしかめることが困難ではなかつたにもかかわらず、この点の調査をしなかつた。」というのである。右事実関係におけるように、代理行為の相手方が金融業者で、当該代理行為によつて経済上の利益を受ける者が代理人自身であり、しかも、代理権についての調査が容易である場合には、たとえ代理人が本人の実印を所持していても、なお、相手方は、代理権の有無について本人にたしかめる義務を負うものというべく、この義務を尽くさなかつたときは、民法一一〇条所定の正当の理由はないものというべきである。したがつて、前記事実関係のもとにおいて表見代理の成立を否定した原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はなく、論旨は採るをえない。」